東京裁判
靖国神社参拝に関して、自民党の主な政治家達が反対し、小泉首相包囲網が出来上がりつつある。 靖国神社問題を論ずるには、「A級戦犯」を断罪した東京裁判についてきちんと知る必要がある。その ための重要な資料のひとつが瀧川政次郎の「新版東京裁判を裁く」上下巻である。 瀧川氏は、昭和21年から、東京裁判の終わる昭和23年11月まで「A級戦犯」海軍大臣嶋田繁太郎 の副弁護人として、東京市ヶ谷の極東国際軍事裁判所に通った。裁判の進展を自分の目で見、自分の 耳で聞いた結果、「この日本国はじまって以来の最大の屈辱である東京裁判の真相を後昆(後生の 人々)に伝えることこそ、私に課せられた任務」と考え、昭和27年、米国の占領終了と同時に書上げた のが「東京裁判を裁く」であった。 瀧川氏は、「新版への序」で書いている。「東京裁判の真相は、記録を読んだだけでは掴めない」と。 なぜなら、日本を裁いた連合国側の倫理の違法性や矛盾を突いた法廷でのやりとりの多くが、当時、報 道もされず、東京裁判の記録からも削除されているからだという。 当時の日本には、GHQによる厳しい言論統制があり、法廷で明らかにされた連合国側の破綻した主 張などは、全く報道されなかったのだ。国民には東京裁判は、日本を戦争の泥沼に引き込んだ軍人達と その暴徒を許した一部政治家達の「悪事」を裁くまっとうな裁判だとの味方が、一歩的に植え付けられた のだ。 瀧川氏は、、日本を弾劾したオーストラリアのウエップ裁判長は、「最初から判決を懐にして法廷に臨ん でいた。」と、書いた。「私はその場にいて、その光景を目撃している」とも書かれている。 【東京裁判は報復と宣伝】 ウエップ裁判長の国、オーストラリアは、かつて白豪主義で悪名をはせた。有色人種の移民などを厳し く制限し、人種差別がまかり通っていた国柄は、アジアの人々を積極的に受け入れる現在の姿とは全く 異なる。オーストラリアの地方裁判所の判事だったウエップは、ニューギニアでの日本兵による「捕虜虐 待」を調査した人物で東京裁判に至る課程では、検察官の役割を果たしていた。そのような人物が、東 京裁判の裁判長になったわけだ。検察官が裁判長になったわけだ。司法において、こんな出鱈目は恐 らく前例がない。 この異状事態について、日本の清瀬一郎弁護人がただした。検察官は裁判官を兼ねることは出来な い、何故にウエップが裁判長をを努めるのかと、するとウエップは「自分はマッカーサー元帥によって任 命された裁判官であるから、辞めるわけにはいかぬ」と理由にもならない弁明を展開し、裁判長の役割 を続けた。 検察官と裁判長の役割を同一人物が果たすという異状事態は、まともな状況下のまともな裁判では あり得ない。そのあり得ない異状がそのまま横行したのが東京裁判であった。 ウエップは二人の米国人弁護士を東京裁判jから除籍した。広田弘毅担当のスミス弁護人と大島浩担 当のカニンガム弁護人だ。スミス弁護人は、是が非でも日本を断罪する姿勢から打ち出されるウエップ 裁判長の偏った訴訟指揮に対して「不当なる干渉だ」と述べた。その指摘に怒ったウエップはスミス弁 護人を法廷から追放した。また、カニンガム弁護人は東京裁判が進行中の時期に、シアトルでの全米 弁護士大会に出席して「東京裁判は(連合国による)報復と宣伝に過ぎぬ」と発言したことを以て、これ またウエップから除籍された。 「A級戦犯」の筆頭とされている東条英機の弁護人プルウエットそれにプレークニー弁護士らは、「原 子爆弾という国際法で禁止されている残虐な武器を使用して、多数の非戦闘員を殺戮した連合国側が (日本の)捕虜虐待についての責任を問う資格があるのか」と問うた。ウエップは「本裁判所の審理と関 連はない」として、全くこの問題を取り上げなかった。勝った側のみが正義は存在し、敗れた側には、一 片の正義も正当な理由も認めないと言うことだ。東京裁判は、日本を一方的に悪者にする余り、非戦闘 員である一般国民を瞬時に死に至らしめた原爆投下については、言及さえしなかった。 【今こそ戦争犠牲者の鎮魂を】 また、世間では、日本は無条件降伏したと言われる。私も学校でそう教わった。だが、日本はポツダム 宣言を受諾して降伏した。日本が受諾した「無条件」は、前線の軍隊が「無条件に武装解除する」」とい う点における「無条件」である。「無条件」は武装解除に限られていたのであり、繰り返すが、日本國の 降伏について付けられた条件ではない。日本の降伏はポツダム宣言に書かれている条件下での降伏 つまり、有条件降伏である。 この点を清瀬弁護人は突いた。日本がポツダム宣言を受諾して降伏したのであるから、その降伏を受 け入れた連合国もポツダム宣言の条項を遵守せよと。同宣言には、国際法にない「平和に対する罪」な どを以て「A級戦犯」を処罰することは含まれていない。従って連合国側に「A級戦犯」を処罰する権限は ないことは明白であり、連合国に委任されて極東軍の最高司令官になったマッカサーにもそのような権 限はないのだ。つまり、清瀬弁護人は、マッカーサーが制定した極東国際裁判所の裁判(東京裁判)そ のものが国際法違反だと述べたのだ。事実に基づいた主張であり倫理も正しい。だが、この主張は却 下された。却下するには、裁判所はその理由を述べなければならない。にもかかわらず、ウエップは、 「その理由は後日述べるであろう」として、その時点でそれ以上の説明はしなかった。そして今日に 至るまで、理由は述べられていない。無法違法の裁判を合法と言いくるめる論理など国際社会にはな いのである。ウエップがどんなに知恵を絞っても理由の説明は出来ないのである。 こうした一連の事実は、当時全く報道されなかった。日本が独立を回復した昭和27年以降もメディアは 長い間、報道しなかった。GHQによる厳しい検閲もあり、メディアは日本一国のみを悪者とする考えに染 まり東京裁判での日本側弁護人の証言は「屁理屈」のように報じられたと瀧川氏は書いてある。メディア によって、提供される情報がそうであれば、国民がそのような考え方に染め上げられたのは、自然な成 り行きだった。 瀧川氏の「新版東京裁判を裁く」を読むと、東京裁判を法廷で見守り、日本のために戦った先人の無 念が、心臓の鼓動を聞くかのように伝わってくる。まさに日本人必読の書だと私は思う。だが、驚くこと に、昭和27年に前著「東京裁判を裁く」が出版されたとき、新聞はこれを「悪書紹介」として批判し、出 版元の東和社は倒産に追い込まれたという。結果として、同書が広く読まれるlことはなかった。 日本は、サンフランシスコ講和条約を結び独立を回復した。東京裁判の判決は受け入れたが、日本 増悪から生まれた同裁判の違法性や価値判断まで受け入れたわけではない。私たちは歴史を振り返 り、東京裁判の実態を知ることで、はじめて、日本に対する非難を一身に受けて犠牲となった「戦犯」 の人々想いも知ることが出来るだろう。そのとき、彼らとその他全ての戦争犠牲者への心からの鎮魂を 忘れてはならない。 |
新潮文庫
異形の大国 中国
彼らに心を許してはならない
櫻井よしこ 著 抜粋